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執筆者の写真ユウキ サクタ

『間違い電話』

SNSを含めさまざまな連絡手段が発達しているおかげで、電話番号にかけて通話をすることはほとんど無い。iPoneの通話履歴の日付けを見てみると、半年以上間隔が空いていたり、1年以上発信も着信も無かった時期もある。


先日、そんな貴重な通話履歴に新たな履歴が記録された。

朝、支度を済ませアトリエに向かおうとしていた時。iPoneがブオーンブオーンと振動し、未登録の電話番号からの着信を知らせてきた。着信先は「石川県輪島市」。

……石川県?何故そこから?

疑問に思いながらも通話をオンにした。

——『おはようございます!◯◯さんですか?△△です。今お時間大丈夫ですか?』

——「……?すみません。どちら様でしょうか?」

——『△△です!!……◯◯さんではございませんか??』

——「いいえ、違います。」

——『え?……あー!間違えた!!申し訳ございません、失礼致します。』

——「失礼しますー。」

通話が途切れた無機質音に変わり、会話はこれにて終了した。

間違い電話だったようだ。ホーム画面に戻ってから、少しだけ感傷的な気分に浸る。想定外だったとはいえ、一瞬だけ此処から遠く離れた地域が身近に迫ってきたイメージ。つむじ風みたいにあっという間に目の前を駆け抜けて、跡形も無く消えていく。

ちゃんと正しい電話番号に繋がったかな?かなり急いでたみたいだけど、相手に連絡ついたかな?

これからどうしたって私が知る術は無い。私も名前を名乗らず、電話口の向こう側の人も早口過ぎて名前も聞き取れなかったため、何処の誰なのかお互い不明のままだ。

でもそれが正しい選択だろう。些細な運命のいたずらで繋がった時間だから、何もせず流していくのが良い。再会する確率は限りなく0だ。

お互い今居る場所で良い日々を過ごしましょう。何も分からない遠くの人にこっそりエールを送った。


「知らない番号かかってきたら、あんまり出ない方が良いんじゃないの?」

これは正論。ただ言い訳を述べさせて頂くと、アートやエッセイなどの公募結果が主催者から電話で知らされる場合もあるのです。(特に入選確定の時のお知らせなど。)かつての数少ない受賞の時もそうでした。



輪島市は石川県の北部に位置し、日本海にも広く接している地域。輪島塗りという漆器が有名。全国でも珍しい(とホームページに記されている)漆芸専門の輪島漆芸美術館、輪島塗会館などがあり、漆芸の歴史やアジアの漆作品もじっくり鑑賞できる。

輪島市を将来の旅先に追加しておこう。




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