知り合いの作家さん方が営む喫茶店へ足を運んだ。3月にオープンしたばかりの喫茶店はギャラリーやワークショップコーナーが併設する、所謂オルタナティヴ・スペースの一角に佇んでいる。多くの作家が展覧会やパフォーマンスを実施していて、以前から馴染みのある場所だ。
「カレーってありますか?」
以前行った時はお昼を少し過ぎていて、喫茶名物の日替わりカレーは完売してしまっていた。
「今日最初のお客さんだからたくさんありますよ〜。」
マスク越しに笑いながら店員の顔と作家の顔、2つの顔を覗かせてメニューを紹介してくれた。
「日替わりカレーはココナッツチキンカレーとほうれん草カレーです。あと本日の珈琲豆はメキシコ。これは苦味とカカオみたいな甘味があります。」
「どちらのカレーも捨て難い……。」
「プラス100円であいがけもできますよ。」
「あいがけで!」
欲張りな私は、迷うことなくカレーセットのあいがけを注文。深く沈むソファに腰掛けながら、テラスに差し込む日差しとカウンター席に置かれているレコード機器、てきぱきと料理に取り組む様子を眺めた。
「インスタ見てますよ〜。最近制作とかどうですか??」
空いてるカウンター席に座り、今は作家としての表情を色濃く出している。しばしお互いの近況を語り合った。
大学院の先輩(在籍は重なっていない)でもある作家さんは、近々このギャラリースペースで二人展を開催するのだとか。(私がお店へ行った時、もう一人の作家さんは他に予定があって会えず。同じく大学院の先輩です。)
「まだまだ構想練ってる段階。ぎりぎりにならないとエンジンかからなくて。」
「ぜひ見に行きますね。楽しみです。」
「今やってる展示も面白いですよ。」
展示中のDMを受け取って、開放的な展示空間に飾られている絵画を鑑賞する。注文の待ち時間にアート作品を見て歩く。此処の特徴的な魅力の一つ。
「作田さーん、カレーできましたよ。置いておきますね。」
一目散にカレーのもとへ。
ひとくちに‘カレー’と言ってもこれほど色彩に違いが出るんだ。左からはほんのり甘い香り、右からはツンとした辛味の香り。アクセントのパクチーが旨味を一層引き立てる。
じんわりと念願の名物カレーを味わいつつ、不思議な感覚が心に広がる。
知っている間柄の人が目の前の創作料理に関わっている。料理人・喫茶店マスター・ホールスタッフ……。画材に囲まれた美術作家とはかけ離れた顔、この人達はこんな顔も会得していた。
食後の珈琲をいただいている間に、複数のお客さんがやってきた。こじんまりとした喫茶店は忙しそうな雰囲気になる。
先程まで作家だった先輩は、お店を切り盛りする店員に早変わり。人は一人で幾つもの顔を持つ。一つ一つが個性的で豊かな表情を湛えている。
カレーとおんなじ。
真理を悟ったひとときでした。
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