ドラマや映画の名シーンは年月が過ぎても色褪せないものである。
幼少期から高校生あたりまでは実家でのんびりとドラマや映画を見る事が多く、特に推理ものは長編、短編、季節ごとの連続ドラマなどを好んで鑑賞していた。それらの中で特に印象的な台詞がある。
『血の出る壁です。痛みを感じる壁です。』
俳優の渡瀬恒彦さん(2017年逝去)が、SP役で主演を務めていた特別ドラマでの台詞。いつ放送されていたのか、ドラマの題名も話の細やかなストーリーも既に曖昧模糊にもかかわらず、この台詞だけはスッと心に留まったままずっと覚えている。
(検索をかければ一発で詳細が分かるだろうが、敢えて今の記憶のまま、この文章を書くことにする。)
このシーンの前後は概ね以下の感じ。
部下のSPの一人が要人を庇い、銃弾に倒れ殉職した。管理職の地位にある上司は『壁として本職を全うした。彼も本望でしょう。』と述べた。
これに対する言葉が『血の出る壁です。痛みを感じる壁です。』だった。
ほんの1分にも満たない僅かなシーン。そして話の展開にはあまり影響がない台詞だったが、推理を進めていく場面より、犯人と対峙するクライマックスより、心の内側に強く大きく刻み込まれた、まさに名シーンだった。
以来、ニュースや新聞などで各国の首相や大統領とともに映り込むSPらしき人々を見かけるたび、この台詞を思い出していた。
血の出る壁、痛みを感じる壁。
多種多様なSNSが溢れる昨今、アカウントという名の壁の向こう側には、無防備で生身の人間がいることを忘れてしまわないように。
作品の些細な部分が、人一人の意識を変える影響力を持っている。アートがアートである強みだと感じるドラマだった。
Instagram、Facebook、Twitter、そしてこのエッセイ。言の葉を紡いでいつかはシェードツリーみたいに……という密かな夢も抱いた。
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