お酒を交わす飲み会の場では様々なマナーが存在する。地域ごとでも特色が出るのだから、国が変わればさらに違いが際立つもの。
縁あって、台北市に新しくオープンしたギャラリーのグループ展に参加した。この機会に台湾への初旅も大急ぎに計画し、実に三年半ぶりの海外旅行を楽しんだ。
今回のグループ展は私を含め日本人作家の三人展。大勢のお客さんが鑑賞のため作品の前で足を留めていて、本来はもっと広く開放的であるはずの空間が、心地良くも少しこじんまりとした印象を醸し出していた。
無事に展覧会初日を終えた後、ギャラリーオープン記念と作家との親睦も兼ねて、台北市の松山区内にある海鮮レストランでの宴会にも招待された。
「此処は観光客向けじゃなくて、台北市民ばかりが利用するレストランです。台北料理もローカルな味ばかりですよ。ぜひいっぱい食べていってくださいね!」
『乾杯(ガンベイ)!!』
10人以上で円卓テーブルを囲んで、掛け声とグラスが当たる音が響きながら宴会がスタートした。お互い名前だけの簡単な自己紹介を済ませ、次から次へと登場する料理に手を伸ばし、各自のお皿に自由に盛り付けていく。
ギャラリー関連の人は半数程で、他にはオーナーさんやキュレーターさんの友人が何人も来ていた。私はもちろん初対面だったが、他の参加者も初対面同士で、それにも関わらず皆気さくに語り合って台湾ビールやウイスキーのショットを何杯も呑んでいた。
前菜の大皿、蟹の丸揚げ、巨大なエビの姿揚げにカレー風味のミンチ炒めがかかった料理に、鯛(不明だが大きな頭付きの白身魚)のあっさり煮、アスパラガスのニンニク炒め……。かなり大きな円卓テーブルがあっという間に埋め尽くされているのに、まだメインディッシュが登場していない。(台湾料理にメインディッシュという概念をはめ込んで良いのか謎だが。)あまりのボリュームに一旦台湾ビールで気分転換しようと、グラスにビールを注いだ。
「Yukiさん、台北では呑む前に必ず誰かと乾杯するのがマナーなんですよ。誰でも良いんです~。」
テーブルの向かいに目を向けると、同じくビールグラスを持った社長さんがにっこりと乾杯のポーズを構えていた。可愛らしくウインクを添えて、私の辿々しいガンベイに合わせてくれた。社長という肩書きからは想像できない、お茶目でチャーミングな一面も垣間見えて、フレンドリーなマナーのおかげで出来上がった一面なんだなあと、台湾ビールをごくごくお水代わりに呑みながら台北スタイルの宴会を堪能した。
『ショットもっといけるでしょう?』
『もちろん!君もね!』
台湾語はさっぱり分からないが、どんな会話のキャッチボールがされているのかなんとなく分かったひとときでした。
Comments