top of page
検索

『アトリエの匂い』

執筆者の写真: ユウキ サクタユウキ サクタ

息子を出産してからはアトリエへ行く頻度が減っている。今は月に片手で数えるくらいの日数だ。でも久しぶりに自分のアトリエに入ると、床やら壁やらに染み付いた油絵具の匂いが以前と変わらず扉を押し開けて広がっていくのが分かる。ああ描かなきゃ、と思わせてくれる懐かしい匂い。年が明けてからまだ一度も油彩を出していないが、無造作に転がっている絵の具チューブや筆のおかげで匂いは途切れることなく充満していた。

普通の感覚だと、油彩文字通りオイルを使うのでくさいと思うだろう。でも私はこの匂いが好きだ。頭の奥底にじんじんと響く独特な匂い。美術館の静謐な雰囲気を連想させ、と同時にキャンバスに厚く塗りたくられた強い物質感もダイレクトに感じる。帰宅するなり家族から「油くさい。」と言われるほど絵の具を手足につけまくってた学生時代を経て、油彩の匂いは筋金入りでお気に入りとなっている。

自分一人の身の時は手足や顔、髪に至るまで絵の具塗れになろうとお構いなしだったが、子どもがいるとそういうわけにもいかない。何でもかんでも口に入れる食い意地張りっ子期(この時期の赤ちゃんには当然の防衛本能)に突入した息子を連れてるため、油絵具は迂闊に広げられない。しばらくは油彩を控えることになるだろうか。成分的に危ういものばかりに囲まれていることはとっくに自覚していても、いざ子どもを基準に客観視したらハードな罠だらけの空間で、今までよく無事だったな……と思ってしまった。(絵の具以外の危険物、大きな木枠、重いキャンバスロール、ノコギリ、ビス、ドリル等、挙げたらキリが無い)

これからはアトリエの模様も変えていくだろう。一角に安全なスペースは確保できたが、これまでのやりっぱなし作業のまま持ち越して次の日にまた描く、というやり方はちびっこと一緒の状況では相応しくない。勢いと感情の乗るにまかせて絵の具を扱うのも考え直さないといけない。

アトリエの想定外な場所に置かれたベビーベッド。作品を立てかけるのにちょうどいい高さだよな、って考えが浮かんだけど実行しないようにします。




 
 
 

Comments


記事: Blog2_Post

©2020 by 作田優希。Wix.com で作成されました。

bottom of page