伏見桃山の大手筋商店街を通りかかった時、無性にたこ焼きが食べたくなった。およそ1年半ぶりに買ったたこ焼きは、京都だしの効いた生地。ネギをトッピングし、定番のマヨネーズやソースは無しにした。商店街出入り口前のベンチに腰掛け、手を合わせる。
「いただきます。」
このお店のは、まん丸で少し大きめなサイズ感が特徴。一口に頬張れる許容量が多い私の深い口腔でも、丸ごと一個をひょいと放り込むのは躊躇うくらい。今まで食べてきたたこ焼き屋さんの中でもサービス精神が豊富だなあ…と、熱々の球体にかぶりつきながら、しみじみ感じていた。
「すんませんが、ここ座ってもええですか??」
先ほどから目の前で初老のご夫婦がいろいろと話をしていた。冬に向けての防寒具を買うとかなんとかと言った会話が聞こえてきていたが、たこ焼きに夢中になっていたため気に留めていなかった。
どうやらお婆さんの方は商店街中へ紛れていき、お爺さんの方は待っていることにしたようだ。
どうぞ、と蛸を噛みながら右隣の席を指し示した。
「そーしゃるでぃすたんす……。」
小声で呟きながら腰掛けたお爺さんに、飲み込みかけた蛸を誤飲しそうになった。
一人分空けてるとはいえ、たこ焼きの強烈な香ばしさはお爺さんに降りかかっていたようで。
「大っきいたこ焼きですなあ。この通りの奥にたこ焼き屋あるけど、もっと小さかったような……。」
すぐ向かいのたこ焼き屋で買った事を伝えると、なんと其処では買ったことがないのだという。
「食べ切れるか自信無いけど、ええなあ…たこ焼き……。」
お祭りで夜見世のたこ焼きをねだる少年のような呟きに、申し訳ないと思いつつも笑いがこみ上げてきた。
「お待ちどうさま〜。なんとか買えたわ。…あら、すみませんねえ。」
先程のお婆さんが会釈しながらお詫びの言葉を述べた。控えめな色彩の服装だけど、手作りマスクはお爺さんと色違いのお揃い。僅かにアイシャドウを付けている。品のある笑い皺から察するに、若い頃はさぞかし美人さんだっただろうな。(ちなみにこの時、私はスッピン。)
「なあなあ、久しぶりにたこ焼き買ってかへんか?」
「何言うてんの?夕飯食べれんくなるでしょ?」
「いけず言わんと…。」
二人してぺこりと頭を下げてから、こんな会話をしながら遠ざかっていった。果たして、夫婦がたこ焼きを買ったかは定かではない。
それにしても、
‘いけず’を使う人初めて会ったわ。
あと……ありがとうございます!仲良しこよしを拝めて最高です!!
華奢な肩を寄せ合いながら歩く姿は、ペンギンのぺたぺた歩きを連想した。
残り2,3個のたこ焼きをニマニマしながら一層美味しくいただく。
趣味と実益、兼ねるの大事。
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