ハイデンバンにある壊れた花壇を修理して、新たな菜園をスタートさせようと土を耕していた。秋からずっとほったらかしにしていた土は表面がカラカラに乾いていたが、掘り進めていくとしっとりした柔らかな土が顔を出し、無数の落ち葉も紛れ込んでいた。これはこのまま腐葉土になるのかな?
スコップでさらにざくざく掘っていく。大きな塊を掘り起こした時だった。
にゅるり。
黒光りして艶々なトカゲが「こんにちは。」と顔を出してきた。いきなりの登場に不意を突かれて、この日一番のジャンプを飛び悲鳴を上げた。
「どうしたん??あ、トカゲや~可愛い!」
(素手で躊躇いなくトカゲを抱き上げたのは、大学院以来の友人である。それなりに付き合いはあるが、新たな一面を知り密かに驚愕した瞬間だった。)
「警戒心無さそう……。」
「人懐っこいトカゲやな。よしよし~。」
記念撮影したトカゲを改めて見ると、本当に不思議な生き物だ。身体の表面は鱗が規則正しく並んでいて、頭の先から爪先、尻尾まで敷き詰められている。爪は意外にも鋭く、恐竜の前足のように地面や掌を蹴散らしている。人間と同じ脊椎動物だから骨がある。それにもかかわらず円形にぐるぐるとぐろが巻けるほど、柔軟性を持ち合わせている。極めつけは「トカゲの尻尾切り」という有り難くもない慣用句の語源になるように、トカゲは危機に直面した際、自身の身体の一部である尻尾を切り離して外敵から逃げる、という特徴があること。
身体の一部を切り離す。トカゲにとっては生きていくうえで備えた当たり前の能力なのだろうが、人間としての常識しか知らない私には、まさに未知の領域。もしトカゲの気持ちが分かったなら、尻尾を切り落とす瞬間も痛みすら感じないでいられてしまうのだろうか?
「自然におかえり~。」
掌から降り立ったトカゲは、尻尾を犠牲にする事なくハイデンバン敷地内の雑草まみれの奥底へ溶け込んでいった。この子も新しい四季を逞しく生きていくんだなあ。次に会う時は、おもてなしみたく花壇が賑やかになっているだろうか?
他の花壇にも何か植えようかな?
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