ただいま部屋の一角で、アクリル絵具をふんだんに活用し作品を制作している。油彩以外の描画材で、がっつりタブロー作品を並行して描いたのは初めてかもしれない。
そんな中、とある一つの色を多く使っている。
きいろ。
あか、しろ、きいろ、と童謡でも唄われるほど馴染みのある色だが、受験時代にちょっと特殊な思い出を残した色なのだ。
「君はしばらく黄色使うの禁止ね。」
大学受験のために通っていた大手の画塾で、当時の先生から受けた最初の指導(という名の指令)だった。
「安易に黄色使い過ぎ。そんなんじゃ絵は上手くならないよ。」
当時高校3年生。美術科という一風変わった専門学科の学生だった私は、アートをより詳しく学んでいるという自負やプライドがあったと思う。
「もっとちゃんと美術を理解し直せ。」
「君、ほんとに旭丘生なの?高校で一体何やってたの?」
……尽く、木っ端微塵に砕かれましたけど。
この先生は東京のアートギャラリーの取り扱い作家さんであり、美術館にも作品が所蔵されている。つまりはすごい作家さんだったわけだ。
塾生には恐れられていた反面、大喧嘩してやめていった学生もいたらしく、そうした武勇伝がまことしやかに流れていた。
喧嘩する度胸も気骨もない臆病者だった私は、律儀に‘黄色’を描画材のレパートリーから除外していた。カドミウムイエロー、イエローオーカー、イエローオレンジ、ネープルスイエロー、レモンイエロー……。
「さくちゃん、なんで黄色持ってないの?」と、高校の友人にも不思議がられていた。
最終的に第二志望の名古屋芸大に進学が決まり、先生とも会う機会がなくなってしまった。すごく苦手だったはずなのに、黄色の絵具を手にする度思い出す。それも郷愁を纏ったセピア色で。
「私はあの先生、割と好きだったな。エヴァンゲリオン初号機みたいでかっこ良かったし。」
同じく名芸に進学した塾仲間がこんなことを言っていた。懐かしく思うのなら、私も嫌いじゃなかったのかな?
‘エヴァンゲリオン初号機’が果たして褒め言葉かは知らないが。
Comments