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執筆者の写真ユウキ サクタ

『黙食文化』

先日どうしても、どうしてもチーズナンが食べたくなった。それも淀にあるインド・ネパールレストランのチーズナン限定で。

散策スケッチの帰り道、お店の灯りを確認。このご時世の中、ささやかにお店はカレーの仕込みをしてくれていた。


「いらしゃいませ〜。ドゾー。」

2度目の来店。今回はカウンター席の奥に腰掛けた。透明アクリル板の仕切りや手指消毒用のアルコールスプレー、マスク着用のお願い看板など、前回よりも主張が大きくなっている印象。

チーズナンセットを注文し、わくわくしながら静かに料理を待つ。私以外には一組の夫婦、後から男性一人のお客さんがいた。

皆、目の前に置かれている料理を黙々と食べている。一言も発することなく、ただひたすらに食事をとっている。ナンをちぎってカレーに浸しぱくぱくぱくと、はたまた白いお米にカレーを大胆にふりかけスプーンで掬ってもぐもぐもぐと。

弾んだ会話は一切無いのに、その光景だけで食欲をそそられた。


「おまたせしました〜。チーズナンセットです。」

お腹の虫が聞こえたタイミングで、注文の料理が運ばれてきた。今日はバターチキンカレーの中辛をセレクト。既にチーズがナン生地から溢れていて、熱々の湯気が香ばしい。

小さく「いただきます。」と手を合わせる。

ふと、今私がいる場所は、駅前の小さな商店街に佇む異国情緒満載のレストランではなく、ひんやりと薄暗い、畳と木の香が漂うお寺の修行部屋なのでは?という錯覚を起こした。ほんの一瞬の気の迷いなのか、すぐに明るい店内の光景が視界に流れてきたのが……。


ただいま飲食店で推奨されている『黙食』は、仏教からきた作法の一つで仏教界では‘もくじき’と読むらしい。料理を作ってくれた人、作物を生産してくれた人、材料や膳を運んでくれた人、そして食材となった生命そのものに感謝の気持ちを込め、食事という行為そのものに集中する事だそうだ。

食の健康記事では‘ながら食べ’のリスクをよく見かけるが、この『黙食文化』を広めた方が実行する人が多いのではないか?

否定よりも肯定の文章は、心で受け取る余裕ができるから。


最後の一欠片のチーズナンを口に放り込みむしゃむしゃむしゃと堪能する。他のお客さんはいつの間にかお店を後にしていた。しばらくお店の営業は20時まで。今度は他のナンも食してみようか。

マスクを装着し、小さく挨拶。


「ごちそうさまでした。」




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