『謎の果実』
- ユウキ サクタ
- 2 日前
- 読了時間: 3分
シェアアトリエの駐車場入ってすぐ右手側に、細長い花壇から窮屈そうに庭木が数本生えている。幹は細めでありながら背丈が2階のベランダと並ぶほど生長していて、巡る季節に合わせて新緑や紅葉が鬱蒼と繁り、出入りする車にも時折覆い被さってくる。アトリエ大掃除の時も山盛りになるほど枯葉や枯れ枝が集まり、ゴミ袋の口を縛る際に何度突き破ってきて指に刺さったことやら。
無造作に伸びた落葉樹のトンネルをふと見上げた時、新緑に取り囲まれた枝からぶら下がるまん丸い物体が目に留まった。おや?
それなりに頑丈そうな枝がまん丸い物体によって微かにたわんでいる。木の実というより果実と表現した方が相応しい大きさ。幹付近の樹冠から梢あたりまで複数実っていて、あともう少し色づくのを待てば熟れて食べ頃になるだろうという期待を感じさせる。
ところで、これは食用の果実なのだろうか。足元には重みに耐えきれず落下した物体が、車のタイヤでプレスされたりカラスにつつかれたりして残骸と化していた。茶色に変色した中身は、塩水につけ忘れたカットりんごを連想させる。
ここのアトリエを拠点にして早5年の歳月が流れているが、果実の存在を知ったのは初めてだった。幸い私でも手の届きそうな枝の片隅に例の果実が実っていた。なんの躊躇いもなくレンガ積みの花壇に乗っかり背伸びをして、息子をおんぶしたまま果実に手を伸ばした。(とんでもなく無謀なことをした。)同じ花壇には薔薇も植えられていて、小さく鋭い棘がいくつもジーンズの繊維を通り抜けてきた。
もぎ取った果実は洋梨のような皮の斑。スーパーで売られているようなぎっしりと身の詰まった感じがなく、身軽な印象。それでも掌サイズの物体からは、果実特有の水気の存在を思わせる香りが漂っていた。
帰宅後、早速真っ二つにカットして断面図を確認。小さいながらも、きちんと種があった。瑞々しい艶のある果肉、薄い皮。やはり梨なのだろうか。
念入りに水洗いして、毒を食らわば皿まで…の気持ちを奮い立たせてひとくち齧ってみた。甘みは殆どなく、シャカシャカした繊維の感触がやけに鼻につく。(この場合舌につく、の方がいいだろうか?そんな表現は聞かないが。)お世辞にも美味しいとは言えない……。多分今から懇切丁寧にお世話をしても味の改善は見込めない。残念で(この生育環境を踏まえれば)至極当然な感想を抱いた。
結局、この果実の正体は分からずじまい。薔薇の木と梨(?)の木、一体どんな基準で選んで植えたんだろう。庭木はシェアアトリエとしてスタジオハイデンバンを立ち上げた頃から既にあり、当時は車高程度の樹高だったそうだ。
肥料やお手入れなどが全くない、育つには最適と言えない場所でも、植物は果実を実らせ新しい種を生み出すことができる。ひょんなところで生命の底力を垣間見た気がした。

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