安野光雅さんの展覧会に行ってきた。展覧会会場は学校の教室のような雰囲気と展示動線で、こくご、さんすう、おんがく、えいご、りか、しゃかい、それぞれのキーワードで作品を展開していて、安野さんの郷愁に満ちた優しくも摩訶不思議な世界を構築していた。
その中で、童謡の情景を描いた作品とキャプションに目が留まった。
『歌の絵本-日本の唱歌より』。
キャプションにはそれぞれ歌詞が記されていた。
『春が来た 春が来た どこに来た
山に来た 里に来た、野にも来た
花がさく 花がさく どこにさく
山にさく 里にさく 野にもさく
鳥がなく 鳥がなく どこでなく
山で鳴く 里で鳴く 野でも鳴く』
『海は広いな 大きいな 月がのぼるし 日が沈む
海は大波 青い波 ゆれてどこまで続くやら
海にお舟を浮かばして 行ってみたいな よその国』
文字を見ただけで歌声が聴こえてきた。視線を上げて絵画作品を眺める。音量がさらに拡大し息づかいや演奏楽器の音など、細かいリズムまで蘇ってきた。
ここで聴こえたのは、幼い頃から馴染みのある童謡シリーズのCD音源。童謡はたくさんの歌い手が歌っているが、私の耳に残る歌声はこのCDに録音されている声だ。歌い手の名前も合唱団も何一つ情報を知らないのだが(改めてCDを探してみようか……。)、意外な部分で自分のノスタルジーが形作られている事に気づいた。
絵と文字の組み合わせは強力なイメージを構成させる。’絵本’は人がおそらく最初に手に取る書物。安野さんが歌に合わせて描いたのか、たまたま歌と雰囲気や色彩イメージが似ている作品を組み合わせたのか?真相は不明なまま鑑賞を終えて帰路についた。
この展覧会では、歌詞以外にも絵本の文章やイソップ童話の物語、子どもにも分かりやすい会話的な表現の解説が設置されていた。絵画とシンプルなキャプションだけでも充分作品の魅力は伝わるが、文字で綴られた歌や物語も一緒に見る事で、さらに深く世界観と余韻に浸れる。そこでは絵の表現と文字の表現に’優劣’は存在しない。相乗効果で『作品』となっている。全てはアートに通じるなあ、と初心を思い出させてくれた。
絵画の展覧会を目的に行ったはずが、朗読会、音楽会も一緒に鑑賞したような見応えと程よい疲労感を感じたひとときだった。
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