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『揺らぐ時間』

  • 執筆者の写真: ユウキ サクタ
    ユウキ サクタ
  • 6月17日
  • 読了時間: 3分

二条城で開催中のアンゼルム・キーファー展へ行ってきた。圧倒的な規模とそれに負けない物質量の作品群が、二条城の台所・御清所内に展示されていた。

キーファーと言えば名古屋市美術館にも作品が所蔵されていて、常設展の空間の定位置に、壁面から飛び出すほど厚みのある巨大な作品が毎回目に飛び込んできた。絵画なのか立体なのか判別不可能な作品は、アートをよく知らない子ども心に言語化できない感覚を植え付けてきた。

さて、今回の二条城での展覧会「ソラリス」は普段は非公開となっている重要文化財が会場となっていて、鑑賞をするにあたっての注意事項がいろいろとあった。靴下必須(タイツやストッキング不可)、リュックは前抱っこ、狭い部屋でもちゃんと入りきって鑑賞すること(大部屋越しに見ないでということらしい、通行の妨げになるから)。平坦な広々壁面が定番の美術館の環境と比べたら、何かと注文の多い展覧会である。

中に入って真っ先に目を引いたのは縦3m、横9m超え絵画『オクタビオ・パスのために』。ゴッホの『耕作地の風景』を構図のベースにしつつ、原爆投下後に焦土と化した光景を描いている。キャプションによると、かつて『耕作地の風景』を所蔵していたのが原爆の父と称されるロバート・オッペンハイマーだったことが影響しているとのこと。ゴッホの数ある田園風景の作品を、原爆の父が持っていた。なんとも言えない皮肉めいた運命を感じる。作品画面には油彩やアクリル絵具だけでなく、金箔、岩石や電気分解による沈殿物といったおよそ絵画に似つかわしくないものが張り巡らされている。

さらに進んだエリアには『モーゲンソー計画』と題された麦畑が広がっていた。焦げた麦と金色の麦が混在し、私の背丈よりも大きな麦が大広間を覆い尽くし、鑑賞者は限られた通路を互いにぶつからないよう行き来していた。このインスタレーションに沿って最奥まで歩いてから振り返ると、壁面前に設置された作品『ヨセフの夢』と地続きになってるように見えて、鑑賞中に三次元と二次元の揺らぎが起こり、何処と形容し難い果てしない世界が現れた。

物質としての存在感や重量感の強い素材を用いるのがキーファーの作品の特徴で、彼が第二次世界大戦当時、ナチス時代のドイツを生きていたのが軸となっている。その後に続く作品も戦争の記憶や傷跡をきっかけにしたものや、哲学、神話、個人的なルーツなど多岐にわたるが、どれも作品そのものの主張の強さが目に焼き付いた。絵画か彫刻か、はたまたインスタレーションか、そんな疑問を浮かべることすら野暮に思えてくる。

歴史ある建物の中に広がる最新のアート。異質な文化と時間と物量どうしがぶつかって、五感に届く情報量の多い展覧会だった。



 
 
 

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