新しい本を探索する時、真っ先に表紙のデザインへ目がいく。絵画作品の一部が利用されたり、イラストレーターが物語の世界観に合わせて描いたものだったり、風景やポートレイト写真が扱われているものなど。シンプルに本のタイトルが大きく印字されているものもある。
近所の図書館へ久しぶりに足を運んだ。年季の入った本の独特な香りが凝縮された空間は、ある種のノスタルジーを呼び覚ます。多くの家を行き来した本だけが纏う香り。それはどこの図書館でも同じ傾向なのかもしれない。
お目当ての作家の本が見当たらず、なんとなく本棚の間を散策していた。背表紙部分が双子のようにレイアウトされた2冊の小説に目が留まる。
アントワーヌ・ローラン著
『ミッテランの帽子』
『赤いモレスキンの女』
どちらも近年日本語訳された書籍で、特に『赤いモレスキンの女』は去年の世界的に先行き不透明な状況で第一版が出版されていた。表紙のイラストは線画と3〜4種類の色彩でどれも暖かみの感じる配色。
ジャケ買いならぬ、ジャケ借りを久しぶりにしてみた。(正しくは表紙借り?)
物語の舞台はフランスの街中。ミッテラン大統領の帽子や主人公の書店に並ぶ本、持ち主の記憶と思い出が詰まったハンドバッグ……。2冊とも持ち物が物語の進行に重要な役割を担っていた。あくまで現実の世界観と時間軸だが、童話かお伽話のようなロマンチックな展開で一気に読了した。(これ以上はネタバレになりそうなので記すのを控えよう。)
第六感の赴くまま手に取った本だが、出会えて良かったと思えるお話だ。
もし、目当ての本がちゃんと本棚にあったらこの小説を見つけなかったかもしれない。
もし、天気が晴れていなかったら図書館まで出掛けることはなかったかもしれない。
逆もまた然り。
もし、目当ての本がちゃんと本棚にあったら早めに図書館を出て近所の喫茶店に行ったかもしれない。
もし、天気が晴れていなかったら家の本棚の肥やしになっている本を一冊読み終えたかもしれない。
「もし」を辿っていくと映画や小説のような不可思議な偶然は身近に転がっている。総じて今回の、‘図書館に行って本を探したが見つからず、代わりにたまたま見つけた小説2冊を借りる’選択を経ての現在は『可能性のノスタルジー』という新しい言葉を発見し、大きな収穫となった。
本棚の肥やしは変わらず蓄積中。
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