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  • 執筆者の写真ユウキ サクタ

『真っ白な拘束具』

大寒波が日本列島を覆い尽くした日のこと。京都市内の自宅もアトリエも、強風が連れてくる冷たい塊をダイレクトに受けて、あっという間に真っ白な拘束具を取り付けられてしまった。綿帽子、雪化粧、白銀などと優雅な比喩が沢山あるが、風と降雪と積雪による激しい軋み音がアトリエの窓や天井から、パテ埋めしたはずの壁の隙間から絶叫のように響き渡り、ハイデンバンのおんぼろ加減を改めて認識したのだった。(幸いこれといった被害はなかった。滑りやすくなっていたくらいである。)

夜の道路はもちろん凍結していて、流石にバイク運転は諦めて京阪線で帰宅することにした。アトリエから淀駅までは徒歩7分ほどなのだが、いつもと違う足元と天候のため恐る恐る歩いていく。歩き慣れたはずの道のりなのに、果てしない荒野を彷徨う感覚だった。既に何人もの人が獣道ならぬ通行道を作ってくれていて、土の色彩と混ざったその雪道を辿った。積もった雪を踏む瞬間、最初は柔らかく何の抵抗もない。その後徐々に全体重を乗せていくと足の裏の雪が圧縮されて層になる。

シャグ……と、普段踏み慣れているコンクリートや地面の土とは明らかに異なる抵抗感が、何とも癖になる音を立てて雪景色の演出に色を添えている。この音を久々に堪能したくて、足跡を辿りながら敢えて新鮮な雪が残る部分を選んで踏み鳴らしていた。

型抜きされた足跡は長靴の他に、革靴、スニーカー、パンプスのものもあった。前日から「寒波襲来!雪対策を!」と呼びかけられていたが、ついいつものルーティンで普段通りの靴を履いて出勤してしまった人々の経緯が語られている気がする。かく言う私も愛用のサッカニースニーカーを履いていた。歩幅も歩く速さも人それぞれ。その形状から何となくこんな感じの人だったのかな?と、既にその場にいない人に思いを巡らせたりする。駅に向かうものと出てくるものが見える形で地面に刻まれていて、はてさて自分はどっちに進みたいんだっけ?と方向感覚がぐらつくような気分になる。途中で乱れた足跡は、誰かが雪と氷に足元を掬われ格闘した時間を物語っている。普段のただ寒いだけのお天気だったら、此処まで詳細に誰かの形跡を留めたりできない。


私達全員、白くて冷たい拘束具に束ねられていた。






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