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執筆者の写真ユウキ サクタ

『無くし物』

『あんたってよく物無くすねえ。気いつけなあかんで。』

幼い頃から何度も注意されてきたにも関わらず、つい先日も大きな落とし物をしてしまった。

月曜日、この日は先週の寒さが嘘のようにぽかぽか陽気なお天気で、鼻歌まじりにバイクを運転し職場に向かっていた。ただ、念のため掌サイズの湯たんぽをコートの両ポケットに入れていた。

交差点で信号待ちをしていた時だ。冷えは末端部から忍び寄ってくる。指先は太陽光より北風の影響を強く受けるようだ。

赤信号でバイクを停止し左足を地面につけて、ぬくぬくと湯たんぽの温もりを堪能しようとポケットに両手を入れた。


……あれ?冷たい……?

右ポケットの中には‘空’がひとつ。

……まさか。

ポケットをたたいても、指先は何一つ触れなかった。


一気に背中が冷たくなり同時に冷や汗が溢れかえる。

「しまったあ!落としたー!!」

慌ててバイクを端に停め来た道を駆け足で引き返したが、付近にピンクの巾着に入った湯たんぽは転がっていなかった。

どうしよう……。この時点で心はパニックで沸騰している。

もし車が踏んづけて事故になったら?

ゴミだと思われて処分されてしまったら?

最悪の想像が次から次へと巡ってきて、快晴の空模様が一気にモノクロームに変換された。仕方なくそのまま職場へ向かったが、四六時中湯たんぽへの罪悪感が重しとなってのしかかっていた。

——せめて誰かが拾ってちゃんと湯たんぽとして使ってくれてたら……。


有難いことに、夜勤明けにもう一度通勤ルートを辿ってみたら国道171号線の端に転がっているのを発見した。たった一晩雨風とコンクリート上に晒されただけで浦島太郎のように風貌が変わってしまっていたが、無事手元に戻ってきた事にほっと安堵のため息。

「良かった〜!ごめんね、ごめんね。」

真っ先に湯たんぽに謝った。(歩行者や自転車の人が不思議そうな顔をしていたが。ヘルメットを被った大人が、道路で拾った物に謝罪していたら誰だってぎょっとするだろう。)


掌サイズとはいえお湯を入れたらそれなりに重量感のある物。そんなものをポケットから落っことすなんて……。


『あんたってほんとによく物無くすねえ。』

母の呆れた笑い声が再生される。







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