視野が広いと、愉快なものに出くわす確率が跳ね上がる。
久々の夜勤の仕事を終えた帰り道。いつもの大通り交差点で信号待ちをしていた時の光景。
てくてくてくてく、てくてくてくてく、てくてくてくてく……。
手押し車を転がしながら、一歩一歩横断歩道を渡るお婆さんが視界に入った。小さく丸まった背中は一定のリズムに揺れ、手押し車と一体化してゆっくりと右から左へ移動している。
よく目を凝らしてみると、大通りの向こう側にある横断歩道。其処にも何やら小さな人影が、てくてくてくてくと歩いているではないか。その人も手押し車を転がしながら、ゆっくりゆっくり横断歩道を渡っている。同じ姿勢で進んでいるせいか、歩く速さがほぼ一緒。白っぽいカーディガンに眼鏡とマスク、黒地のゆったりしたズボンまでお揃い。ここまで相似しているのも珍しい。唯一異なるのは、帽子の色が手前のお婆さんは白、奥のお婆さんは黒色だった事。
さてどちらが先に渡り終えるでしょうかー??
頭の中でレース中継のようなアナウンスと、かけっこで定番の音楽が響きわたる。
——手前走者が一歩リード、奥走者が白線二本分の差を縮めてきた!……少し抜かれた?あ、また追いついてきた!
運動会さながらの光景が後押しして一人盛り上がっていた。近年は運動会を5月ごろに実施している小学校も多い。個人的には秋の風物詩だと思っているのだけど……。
国道1号線を急かせかと行き交う車の運転手にとって、お婆さん方はありふれた歩行者であり記憶に残ることはない。歩行者のほうも、勝手に横断歩道渡りっこの選手に任命されてるなんて思いもしないだろう。
自動車学校で常に広く視野を見渡すよう指導されたおかげで、歩行者や対向車の集団から面白い発見をするようになった。指導の意図とはかけ離れているかもしれないが。
夜勤明けは一刻も早く自宅の布団の中に包まりたい思いが強いのだけど、この光景はじっくり見ていたいな。こっそり癒されたとある朝の秋晴れのひとときだった。
————渡りっこの結果は?
2,3歩差で奥の走者に軍配があがった。
Comentarios