梅、水仙、菜の花や白木蓮など、多くの花々があちこちで開花するのを見かける季節がやってきた。早春の暖かさと寒さの名残りが混ざり合うこの時期は、花粉症や早起きしすぎた虫との格闘が始まる。ちょっとげんなりしそうな日々を、ささやかに可愛らしく縁取ってくれる花は、最近の気温と陽気な空模様に後押しされ、去年の同じ時期よりも早く生長している印象だ。もう少し待てば春の日本の代表花、桜前線があたり一面を彩ってくれるだろう。
焦点を合わせられないほど果てしなく広がる蒼い世界に、煌々と太陽が昇っていく。直射日光を見る事はできないけれど、全身でその恩恵を浴びる事ができる。疲労困憊の夜勤明けや、制作に行き詰まって集中力が途切れた時、外に飛び出して道端で開花する花と同じように日光浴を堪能する。細胞一つ一つも、待ってました!と言わんばかりに心地良く暖かい熱を吸収していく。視界がクリアになり、水を吸った土のように柔らかく頭も冴えてくる。
結局のところ、人間も他の動物・植物と同じ。生きていく上で太陽光が必要なのだと自覚する。どれだけ文明が発達し、真夜中に活動できる環境が整えられても、太陽の惠みとは切り離せない。
学生時代に友人と徹夜でカラオケ大会をした帰り道、お店を出た直後は足元もふらふらで、お酒を飲んでもいないのに酔っ払っているような感覚だった。始発の電車を待つ間に、名古屋駅前の高層ビルの隙間から幾つものガラス窓に反射して、朝一番の日の光が飛び込んできたのを覚えている。あたりはまだお店も開いてなくて、ほんの少し光を浴びただけなのに、心身がシャキッとして意気揚々と朝帰りした。その後普段通り朝食をとり、一睡もせずにいつもと同じ時刻の電車に乗って大学へ行ったという思い出付きだ。
「体力お化けか!」友人からはダイナミックなツッコミを受けた。
太陽光は体内時計を動かす源にもなっている。宇宙空間へ放たれた恒星の熱エネルギーの一部が、岩石でできた小さな地球の小さな陸地に立つ小さな私に、さんさんと降り注いでいる。
「……ハックション!」
花粉飛散の情報をチェックしておかなくては……。
『二十億光年の孤独に
僕は思わずくしゃみをした』
図らずも谷川俊太郎の詩作、「二十億光年の孤独」の光景を身をもって再現していました。
Comments