『お別れパン屋』
- ユウキ サクタ
- 5月26日
- 読了時間: 2分
今度は馴染みのパン屋さんが閉店した。
パン作り人生半世紀越え、とでも言えそうなくらいご高齢の老夫婦が2人で切り盛りしていたお店。自宅から一番近くにあり、早朝7時からオープンしていたパン屋さんだった。ゆったり珈琲とともにいただくモーニングに、出勤前の手軽に取れる朝食に、午後3時のおやつタイムに……。さまざまな場面でお店の名物パンをいただいていたが、振り返ると自分にとってあまりにも当たり前に在り過ぎていた、と思った。
せっかく歩いて数分もかからない場所にあるパン屋さんだったのに、忙しさに紛れてここ2、3ヶ月ほど買いに行ってなかった。これ以前も空白の期間があるにはあったが、お店の扉を開ければいつも変わらず最低限の挨拶と接客でお出迎えしてもらえて心地良かった。正直に言うと愛想がすごく良いとか、気さくで明るいとかいう雰囲気ではなかった。無口な職人型で黙々と作業をしている様子が売り場から見えていて、ただそのストイックな印象が街角の小さな店構えと合っていてお気に入りの空間だった。(本当に道の曲がり角にあった。)
先日、ようやく少し時間ができて久々にパン屋さんの前を通ると、いつもは香ばしいパンが敷き詰められている棚の上に白い蘭の花束が飾ってあった。ひらりと予感が右から左に流れてきた。扉に貼られた報告『身体の衰えを感じるようになったため4月30日を持ちまして閉店となりました。』うろ覚えだがこんな感じの文面だった。
ああ、とうとうこの日が来てしまったのか……。初めてこのお店を見つけた時からなんとなく、自分が此処に住んでいる間にお店は歴史を閉じるかもしれない、と予感めいたものを感じていた。それでもあっという間過ぎると思うのも本音だが。
通ううちに慣れの感覚が広がりそんな予感を鈍らせて、結局あのパンやこのパンを味わうことは永遠にできなくなってしまったわけだ。ポイントカードも作ってもらってたけど、小さな思い出の紙切れと化してしまった。
確か去年もこんなお別れをしたお店があったな。(ケーキ屋さんの話は以前エッセイで書きました。)
ちょっとした近所で繰り広げられた、出会いと別れの時間だった。
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