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執筆者の写真ユウキ サクタ

『世界で一番美味しいもの』

先日SNSで流れてきた動画が、今、心に静かにゆっくりと浸透している。

一人の若い兵士が街の住人から一つのパンと一杯の紅茶を貰い、涙を流しながら食べている。僅か数分の動画だったが、此処で画面に映り込んでいる人々の背景を整理してみた。

兵士はこの街に銃口を向けていた。自らの意思に反していたかもしれないが、彼の放った銃弾が街の何処かを破壊してしまった事は事実だ。街の人々はある日突然、暮らしのリズムを壊された。最新の銃を握ったことのない、戦車の操縦などしたこともない、極々普通の住人だった。

これは街を、国を、現在進行形で壊し続けている兵士の一人に食事を差しだしている光景。

動画内では耳慣れない外国語が飛び交って明確な詳細は不明だが、パンを口のなか一杯に頬張り、淹れたての紅茶を手にする兵士は、この瞬間からもう一国の’兵士’ではなく一人の若者だった。涙を浮かべて黙々と食事をする若者、パンと紅茶を用意した住人、見守る兵士と街の人々。

遠い極東の安全な場所から眺めている私は、手を合わせることしかできなかった。


この人達には、もっと素晴らしい出会い方があったはずなのに……。


『本当の正義の味方は、飢えている人にパンを分け与える人。』

作家人生においてもバイブルになっているやなせたかしさんの格言。この言葉を身に染みて実感させる映像だった。

地域ごとや国ごとに、個性的な料理が溢れている。庶民的で広く知れ渡るものから、希少価値のある食材で作られた高級料理まで、数えきれないものが食文化として育まれてきた。それにも関わらず、飢えている人が世界の何処かに大勢いることを思い知らされた。

一方で、暖かい部屋から多くの兵士に街へ銃口を向けるよう指令する人は、毎日の食事に困ったことなどないだろう。でもその人は、兵士が初対面の街の住人からいただいたパンと紅茶の美味しさを理解することはできない。世界で一番美味しいものを認識できない、それが生きる事においてすごく哀れな欠落だとしても同情はしない。


これ以上、悲しい出会いをする人々が現れませんように。

祈ることしかできない自分の立場がもどかしい。






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