先週愛知県に帰省した時に、名古屋独自の喫茶店モーニング文化を味わってみた。名古屋のモーニングはちょっと変わっていて、平日朝の時間帯は、飲み物を注文すると自動的にトーストとゆで卵がついていくる。珈琲や紅茶がだいたい一杯400円ほど。外食だと大抵、料理に追加してのセット等で飲み物の方をお得に注文できたりするが、こちらでは飲み物がメインとなりサービスが展開されているようだ。
実家暮らしだった頃は、朝からカフェや喫茶店を利用する機会もなく、今回が初の故郷での喫茶店モーニングだった。
名古屋駅の太閤通口から西南に向かい、大通りから一歩入り込んだ道沿いに佇むCOFFEEモック。店内は5つのテーブルとカウンター席。入ってすぐ見える細い縦長楕円形の窓に格子柄の薄地なレースカーテン、外から入り込む光を少し調整して内側の時間感覚を鈍くさせている気がする。このお店は店長さんが一人で切り盛りしていて、お客さんも近所の常連さんばかりの印象だ。一番広い壁面に木製プレートが掛けられ、馴染み深い丸みのあるゴシック文字でドリンクと食事のメニューが彫られていた。どこの喫茶店でも見かけるものばかりが集まっていたが、’喫茶店’に相応しい定番メニューがこんなにもあったんだ、と気づいて新鮮な気持ちになった。
「お待たせしました。ホットコーヒーとモーニングです。」
マグカップにたっぷり入った珈琲と、バターが香ばしい厚切りトースト、ゆで卵がテーブルに並んだ。店員さんの言葉が、さりげなく先に珈琲、それから’モーニング’と伝えていて、お店の中心はやはり珈琲なのかな、とこっそり感じた。トーストは4枚切りのハーフサイズだったが、パン生地がかなりもちもちしていてボリューム満点、バターも耳の部分ぎりぎりまで分厚く塗られていた。ゆで卵は中までしっかり火の通った固茹でタイプ。殻を自分で割ってテーブルにある塩や砂糖を、お好みでかけて丸齧りするのがよく見かけるスタイルだそう。個人的に黄身が半熟な状態が好みなのだが、この食べ方だったら半熟だと大惨事になるかも……。ひんやりとしたゆで卵をお皿の端でコッコッと叩いてひびを入れる。卵の殻の音が、静かな喫茶店の天井にまで反響していた。意外と綺麗な響き。シンプルな朝食をとりながら温かい珈琲をゆっくり味わった。少し苦味が強く、香りが甘めな珈琲豆。後味はすっきりとして、ゆで卵のモゴモゴした食感を程よく中和してくれた。普段自宅で食べている朝食量より少ないはずなのに、すっかり満腹になっていた。懐かしい鍵付きオルゴールのような、生活感がありつつ現実から少し離れた独特な空間が、食べられずとも美味しい朝食の一品になっていた。
「ありがとうございました。いってらっしゃい。」
見送られて、外に出ると此処の日常の音が溢れていた。名古屋も京都も大都会。似たような建物や車が多くあるが、やっぱり何処かが違っている。同じ銀杏の木でも、剪定や生長具合によって印象が異なるように。
よく知っていたはずの地域の音と文化が、初めて出会った遠いところからの物のように感じた。
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