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執筆者の写真ユウキ サクタ

『ビールの沼』

我が家にはクラフトビールサーバーなるものがある。月に一度、全国津々浦々のブルワリーオリジナルブランドのビールを2種類注文し、サーバーにセットして酒場さながらにビールをグラスに注ぎ、晩酌を楽しむのが日課となっている。全国のクラフトビールを家庭で味わおう!をモットーに始まった、いわゆるクラフトビールのサブスクリプションだ。

サブスクリプション、通称サブスクは、以前から音楽や動画配信などでなんとなく認識していたが、ビールのように実体として捉えられる物を対象に展開する発達したビジネスとなっていた事に、捉えきれない時代変化の速さを感じた。そもそもこれほどまでに日本国内で、数多くのクラフトビール工房が存在している事に驚きを隠せなかった。(大まかに見れば、携帯電話やWi-Fi、賃貸マンション、美術作家として必要不可欠なシェアアトリエ、作品倉庫の家賃などもサブスクの概念と同じなのかもしれない。)


今月注文したビールは、新潟県胎内市からやってきたシトラヴァイツェンと吟蘢IPA。どちらもおなじ胎内高原ブルワリーで作られているが、シトラヴァイツェンは一口目にフルーツの甘味があり喉ごしがすっきりしていてまさにビールの王道、対して吟蘢IPAはグレープフルーツを初めて口に放り込んだような苦味と甘みが混ざり合う、一言で表現しきれない味だった。

かれこれ10種類以上のクラフトビールを堪能してきたが、ビールの中にもIPA、ペールエール、ピルスナー、スタウトなど味や醸造によっていくつもの傾向があるようで(白状するとどれがどの形態でどんなビールなのか……明確に答える事は未だできない)、珈琲豆のように果てしない奥行きがある。アルバイト先の居酒屋にももちろんビールは常備してあり(実家でも馴染みのあるアサヒスーパードライ)、暮らしの中で一番身近にあるお酒だった。

ただ……。

「ビールはお腹いっぱいになるのに全然酔わないのがもったいなくて、あんまり呑まないんです。」

バイトを始めたばかりの時期、店長とのお酒談義をした折に生意気にもこんな発言をしたことを覚えている。数年経った今、ワインや日本酒と一線を画す、ゆっくりじっくりと脳細胞を酩酊状態に転換していくビールの魅力にすっぽり嵌まっている私を知ったら、当時の自分はどんな反応を示すだろうか。


クラフトビール二種飲み比べセット晩御飯付きを味わいながら、このエッセイを綴っています。



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