『山頂は麓と比べると5℃ほど気温が低くなります。』
ホームページやガイドブックなど至るところに、この注意書きが記されていたのを覚えている。
縁があって近畿地方の中心に聳える六甲山へ、初夏から秋にかけて何度か訪れる機会があった。
京都から神戸へは125ccのバイクでおよそ2時間半。8月以降、連日大雨や強風に見舞われていたが、奇跡的に私がバイクで六甲山へ向かう日は晴天に恵まれた。
街中を運転中、フルフェイスのヘルメットは日差しを吸収して内側がものすごく暑くなる。運転する緊張感と熱中症への対策、作品を仕上げるための画材の大荷物を抱えて見慣れない道を進んでいくと、周囲が徐々に深緑色のもこもこした樹々に置き換わっていく。
「六甲山だ!」
山に差し掛かると、道路の角度が険しくなり急カーブが増える。アクセルを強めに回して後ろに引っ張られないようハンドルグリップをしっかり握る。
一本道の人工的な道路を覆い尽くすほどの山の緑が両側から迫ってくる。こうした山道は幼い頃に車の後部座席から眺めていた記憶と重なり、新鮮な目線よりも懐かしい印象が強い。後ろに流されていく左右の景色を見送りながら、少しずつ気温が下がっていくのが分かった。
きっちりと舗装された山道を進み、ようやく目的地の六甲山上ケーブル駅駐車場に到着した。無事に辿り着いてホッと一息つく。
ヘルメットを外し山上の空気を顔面いっぱいに味わう。直射日光は平地と同じくらい眩しいのに、ひんやりとした肌寒さがジャケット越しにも伝わった。此処は一歩季節が進んでいるようだ。
四方をしっかり囲まれた車よりも、身体が剥き出しのバイクは気候の変化をより敏感に受け止められる。(もちろん何かあったときの危険ははるかに高い。安全運転は常に心掛けたい。)
『山頂は麓と比べると5℃ほど気温が低くなります。』
なるほど。確かに実感しました。
追記:月曜日にこのエッセイを仕上げ、翌日9月14日火曜日に再び六甲山へバイク登りしたのですが、あいにくの大雨に当たってしまいました。山頂に到着した時、より大きなため息がでたのは言うまでもありません……。
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