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執筆者の写真ユウキ サクタ

『ストローク観察』

大勢の人が行き交う場所での定点観測。大学での仕事帰り、久々に京都駅の烏丸口から八条口へ縦断するルートを歩いた。天井が高く開放的な空間のはずなのに、何かの弾みで誰かの肩や腕が当たったり、内緒話が漏れ伝わってくるほどの至近距離ですれ違う瞬間に幾度となく遭遇した。

冬支度で出してきたヒールタイプのブーツは硬いコンクリートの上で甲高い音を立てているが、周囲の喧騒で掻き消され、ただ足の痛みだけが「今ブーツ履いてるんだった。」と認識させる感覚になっていた。

階段上がってモノトーンベースのフロア、両出口を上空で繋ぐこの通路の真ん中辺りにJR線の改札口がある。通路を挟んだ向かい側の空間は床も白っぽい色彩で明るめな印象。奥にピアノがあるらしく、鍵盤を叩いて誰かが生演奏を披露しているようだ。

白と黒を隔てる柱にもたれて、先ほどまで自分も紛れていた通路全体を見回してみた。人の流動が二通りある。一つは左右横向きのストローク、もう一つは改札機を基点とした扇形を描く前後の描き。絶妙に混じりあったり避けたりしながら、ストロークの粒子は左右の視界の端から、改札口のそのまた向こうの消失点から、出てきたり吸い込まれたりしている。運行情報を表示しているモニターには、遅延情報と運転再開情報が交互に映し出されていた。手では掴めない出来立てほやほやの情報を頼りに、近鉄線かJR線どちらを選ぶか話し合っていた2人は、決着がついたようでJRの改札口へ向かって歩き出していた。左側から勢いよく流れてきた5人組は、中学生くらいのまだ「幼い」という言葉に包まれていそうな男女。スマホと周囲の風景を交互に見ながら、八条出口の方向を指差して小走りで視界から外れていった。いつの間にかストローク中からクローズアップされた大家族は、ベビーカーかと思いきや帳付きの電動車椅子を押していて、その車椅子の至る箇所に沢山の荷物が宙ぶらりんに吊られているのが遠目からでも分かった。いくら頑丈とはいえ大丈夫なのだろうか?後から押し寄せてきた勢いの良いストロークに上描きされ、大家族の行く先を確認できなかった。

誰一人として私の視線に気づく人はおらず、透明人間になったかのように錯覚する。一瞬限りの気に留めない出会いと別れが繰り返されていて、それを僅かながらも見届けられた事に自己満足な達成感を抱いた。




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