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執筆者の写真ユウキ サクタ

『ゴットハルト鉄道』

先日名古屋で開催した個展が無事に終了しました。仕事との関係もあり、期間中は何度か京都と名古屋を行ったり来たりしていたが、次の制作への課題が見えて収穫の多い展覧会となった。

さて、ギャラリーにて在廊していた時のことだ。

お客さんとの会話の中で、多和田葉子さんという小説家の名前が登場した。

「この人の作品は言葉選びや文体が強烈なんですよ。星に仄めかされて、とかおすすめです!」

恥ずかしながら彼女の作品は一つも読んでいなくて、いつの間にか会話は違う話題に変わっていったのだが、’多和田葉子さん’の名前を、つい最近身近なところで見たことがあるような気がした。


そんな会話をした翌日。美大受験時代に、画塾への通学路になっていた道からちょっと外れた大通り沿いで、『ちくさ正文館書店』を見つけた。特にアートの画集や音楽関係の書籍が豊富に並べてあって、掘り出し物が沢山眠っていそうな印象だ。受験時代に此処の存在を知りたかったなあ。

文学書籍と文庫コーナーあたりを散策していたら、私の目線二段ほど上あたりの棚に、多和田葉子さんの文庫が複数陳列されていた。

吸い寄せられるように手に取った『ゴットハルト鉄道』。ドイツ語で’神’と’硬い’を意味する言葉。作家プロフィール欄には、ドイツの永住権を取得し、ハンブルグに住居を構えている情報があった。

この作家さんメモしておこう。

iPhoneのメモアプリをタップして『気になる本、』で記録しているメモを開いたら、いきなりトップの段に’多和田葉子「星に仄めかされて」’と記してあった。

——とっくにメモしてたのか!

なんだか見たことある漢字の並びだなあ……と思っていたら、最も手元近くにある所で頻繁に眺めていたようだった。

不思議なご縁を感じて、そのまま手に持ったゴットハルト鉄道を購入した。(『星に仄めかされて』は『地球にちりばめられて』と連作になっているらしい。改めて二冊同時に揃えようと思う。)


——ゴットハルト鉄道に乗ってみないかと言われた。


この一言で始まる短編は、想像の斜め行く展開で物語が進んでいった。文章がすごく生々しい肉体を帯びている。食道やら子宮といった体内の構造を示す単語がひっきりなしに出てきた。

読了して感じた気持ちは「好きだ……。」と至ってシンプルな感想。いつ、どこで初めて名前を聞いたのか覚えていないが、長い時間を経てようやく多和田イズムの片鱗に触れた瞬間だった。

ただいま同時収録されている『無精卵』を読書中。こちらも謎めいた展開と、夢か現かの世界観が魅力的な短編。


次は長編小説を探してみよう。




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