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  • 執筆者の写真ユウキ サクタ

『コントロール』

「いつもにこにこしてるのに描く絵はすごくダークだよね。」

大学のアトリエで友人と作品の話をしている時に、よくこの話題になっていた。受験の絵画から抜け出し自分の表現を試行錯誤している段階、どうやっても個人の性格や思考が作品に荒く出てくるのは美大生ならでは。友人曰く、性格と作風のギャップがあまりにも大きいのが気になっていたのだそう。

「余計に絵の怖さが際立つというか……。」

何考えて作品作ってるの?

制作中の心理状態なんてじっくり考えた事がなく、むしろ無意識に笑顔でいる状態をコントロールしていることに注目がいった。

ずっと幼い頃は誰しも感情に赴くまま、喜怒哀楽の表情を剥き出しにしている。写真を見返すと、カメラを向けられているにも関わらず不機嫌な顔をしている一瞬が刻んであるものも少なくない。

今振り返ってみて、笑顔と自分の思考回路を切り離して操作できるようになったのは、学生時代のアルバイト経験にあるように思う。

当時、名古屋芸大近くのショッピングモールにあった大手のジーンズショップで、4年程アルバイトをしていた。デニムの知識などほぼ0でありながら時給に釣られて始めたバイトなのだが、人様に商品を紹介してお勧めしていく一連の流れは、まず笑顔を伴っていないと大抵上手くいかなかった。バイトを続けていく中でデニムやジーンズの知識を抽斗に溜めこんでいき、言葉としてアウトプットしていく。でも澱みなく商品価値を説明しても最終的に笑顔の有無が相手の購買意欲を左右していた。次第に常に笑顔を振り撒いておけば仕事が捗ることを学習し、やがて自分の感情とは無縁の動作として定着していったのかもしれない。

またこの学習は思わぬところでも効果を発揮している。

美大生の典型的な傾向として、作品のクオリティが上がってもそれを上手く言語化できないことがある。そんな中移ろいゆく個人的感情から一旦離れて、何を軸に作品を構成しているのか、制作との向き合い方はどんなものなのかを客観視しプレゼンする訓練にもなった。笑顔の下に蠢く言語化不明の感情を冷静に整理して、必要な情報を掻い摘んで説明する。今でも役に立つ学習内容でした。


「あんな陽キャの結晶みたいなとこでバイトしてたん?!美大生が一番しんどいやつやん。」

「ですよね。」

アトリエをシェアしている作家さんから想像以上のツッコミを受けたが、あの期間は無駄ではなかったと思う今日この頃。




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