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執筆者の写真ユウキ サクタ

『クレアおばさん in Deutschland』

最近ドイツ語の勉強をおさぼり気味である。

3ヶ月ぶりくらいにテキストを開いたら、以前はすっとイメージが湧いていた単語が分からなくなっている始末だ。

さて、こんな万年初心者なドイツ語力であるが、忘れられない新鮮な画像が湧き上がる言葉がある。


名古屋芸術大学時代に、ブレーメンのHochschule für Künsteへ短期交換留学していた時の一コマ。此処の大学にもMensaと呼ばれる学食施設があり、調理や配膳をこなすクレアおばさんのような雰囲気のスタッフさん達がテキパキと働いていた。

当時は誰一人としてマスクをしていなかったため、表情からダイレクトに互いの気持ちが読みとれていた。

その日は慣れないドイツ語をなんとなく試してみようと思っていた。注文したメニューをお盆に載せてもらった時に小さく「Danke schöne.」と呟いたら、


「Bitte schöne~」(どうぞ~。)


と、軽やかでリズミカルな声で返事をされた。その時のクレアさん(名前は分からずじまい……以後クレアさんと記してます。)の笑い皺がいっぱいの目元と、健康的なピンク色の歯茎と白い大きな前歯が丸見えの笑顔が、『Bitte schöne.』の単語を耳にする度思い浮かぶようになった。ブルーのグラデーションが鮮やかなアイシャドー、太くガッツリと引かれた黒いアイライン、しっかりワックスでセットしたであろう髪は、割烹着の帽子の隙間からちらりと見えていた。一言にぎゅっと凝縮されたアクセントやトーン、独特な声色も未だに覚えている。

クレアさんがどれくらいの背丈だったか?瞳の色は何色だったか?爪にマニキュアは塗っていたっけ?とか、忘れてしまっている部分もあるのだが、6年経過した今でも『Bitte schöne.』の単語とともに思い出す場面は、クレアさんとの僅かなやり取りの日常だ。

言葉にイメージを定着させるために、特別な出来事は必要無くて、何気無く日常に転がっているひとときが少しずつ心に浸透していく。語学を学んでいく上でこれは凄く大事な感覚なんじゃないか、と最近ようやく気づき始めた。(何せ素人の意見なのでスルーしてください。)


学食に携わる人は、クレアおばさんスタイルが集う印象だ。見た目も一致する人はもちろん、全く似ていない容姿でも醸し出す雰囲気・立ち居振る舞いがなんとなくクレアおばさんだなあ、と感じる人が多い気がする。留学先の大学ではMensaの他にお酒も提供しているカフェがあり、友人からは『カフェの方が美味しいしお勧めだよ。』と言われていたが、なんとなくクレアおばさんが恋しくなってMensaも愛用していた。



あまりいじっていなかった記憶を引っ張り出して、6年という年季が入っている事に少しだけ切なくなった。





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