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執筆者の写真ユウキ サクタ

『ギャラリー巡り』

烏丸に去年開廊したばかりのタカ・イシイギャラリー京都にて開催されていた、ジャデ・ファドジュティミさんの個展を見てきた。久しぶりに誰かの展覧会に足を運んだが、地下鉄四条駅から階段を上って地上へ出た時の空気感が、いつの間にか春のしっとりした水気を含んだものになっていた。身体の水分を吸い取られる程の寒さと乾燥の季節はとっくに消し去られている。(しばらく体調不良で自宅に閉じこもっていて、葉桜を鑑賞する機会もなかった。最近は満開桜より葉桜に趣を感じるようになっている。)

駅周辺はCOCON烏丸やSUINA室町といった大きなショッピングモールが並んでいるが、綾小路通を西に向かって歩いくと道幅がだんだん狭くなり、築100年越えの建物や、コンクリートマンションなどに景色が変わっていく。今と過去が入り乱れている通りにぽっかりと背丈の低い町屋が唐突に建っていた。

築150年以上も経つこの町屋は極力当時の状態のまま保存され、コンテンポラリーアート作品を場の空間に生かしたスタイルで展示している。ギャラリーの間取りは定番のホワイトキューブではなく、広々と土間があって、和室が二部屋、小さな中庭を通ってさらに二部屋、土間は鰻の寝床形式で奥まで続いて、突き当たりには別棟の蔵。窓は無く、襖をとっぱらって外と内が一体化になるような雰囲気。外から絶え間なく入り込んでくる喧騒は現在の世俗的印象が満載だが、見るものと聴こえるもののチグハグな空間はなかなか新鮮なものだ。

今回の展覧会では約200cm規模の大作とドローイング作品が複数展示されていた。横開きの扉を開けてすぐ右側に、大作が柱と柱の間に収まるように展示されている。自然光も入ってくるが、光源は小さな灯り一つで、明るい色彩の抽象的なストロークが軽やかさを放ちつつも少しもったりとした印象も受ける。よく画面を見てみると厚塗りされた部分やペインティングナイフで削り取った跡だったり、かなり荒々しい筆致もある。ドローイングは大規模な大作と変わってこじんまりとしたサイズ感。寒色と暖色系の色彩を重ねたり、絵具のカサッとした質感、スケッチブックの紙色が透けて見えたり、見どころがつきない。個人的に気に入ったのは離れの蔵に展示されていた大作。三段ほどの石階段を上がって中に入ると、外からの囲いに反して意外と広い空間で天井は少し低め。スポットライトで照らされたキャンバスには下部にくっきりと影ができている。ここまで抽象的な描きが多かったが、この作品には水草のような、風車のような具象ぽいモチーフが描かれていて、物語性を感じる絵画になっていた。作者特有の大きな筆致の塗り重ねや抜けの色彩は健在だが、画面上半分の右上から左斜め下へ勢いよく流れていくストロークと色彩に清々しさと一種の不気味さも抱いた。また展示した壁面の位置も絶妙で、蔵に入っていく手前、和室の展示スペースの縁側からもちょうど作品全体が見られるように計算されている。少しずれては絵画が蔵の扉に見切れてしまうし、また作品のサイズがこれよりも小さかったら縁側から遠すぎて見えづらくなってしまう。作品のサイズと展示場所と鑑賞者の視点が見事に融合した地点に、思わず「おおっ!」となった。

春から初夏はギャラリー巡りにぴったりな時期。猛暑がやってくる前にもう少し巡っておきたい。

ジャデ・ファドジュティミさんは、2016年に短期交換留学制度で京都市立芸大の油画大学院で学んでいたらしい。彼女にとっても京都が馴染み深い土地だった事に何かしらのご縁を勝手に感じた。




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