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『ごはんさん』

  • 5月1日
  • 読了時間: 2分

3月下旬から息子を連れて里帰りした。およそ3週間、慣れた家でだらだらと起きて、食べて、寝て……を繰り返したおかげで2人そろってまんまるぶくぶくシルエットになった。京都へ戻って真っ先にすべきは体型管理かもしれない。

三重県の祖父母宅に滞在していた時のこと。早朝からせかせかと祖母が朝食作りに専念していた。昔は遊びに行くたび私も負けじと早起きしていたが、必ず祖母は一足先に起きて活動していて、そしていつも仏壇にとあるものを置いている。

「もうごはんさんの分よそったで朝ごはんええよ。」

ごはんさんとは仏壇にお供えする山型に盛ったご飯のこと。毎朝一番に炊きあげた白米を真っ先に専用の器に盛りつけて、ほかほかの湯気を漂わせたまま厳かな雰囲気の仏壇の前にお供えするのが、この家の日課となっている。白色のハイライトが差し色みたいなアクセントとなり、金箔の貼られた重厚な仏壇がより眩しくなる。幼い頃は特に意味など考えずに、手伝いと称してごはんさんを指定の台の上まで運んでいた。(当時は仏壇の障子を開帳して左右と中央にお供えしていた。今は仏前の小さな机に置いているらしい。)

ごはんさんにまつわる思い出と言えば、お供えが終わって夕方にごはんさんを回収した後、その白米を好んでいただいていた時期がある。空調も整えられていない閉めきった座敷の仏壇に、長時間剥き出しで置かれていたご飯。当然中までかちかちに固まって冷えきっていて、どう考えても美味しいわけがない。でも見慣れない器に綺麗な山型に盛りつけられて、普段と違う演出のご飯の様子に幼心の琴線が反応したようで……。

「あんた小さい頃、ごはんさんじゃないと嫌やって言うてた時あったなあ。」

祖母から記憶にも残っていない自分の歴史を語られた。成長とともに炊き立てご飯の美味しさを認識して、ごはんさんから卒業していたらしい。

今のごはんさんは、祖父のお茶漬けの一部となっている。




 
 
 

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