大学院で所属していた畳ゼミでは、『お出かけゼミ』と称して大阪や京都市内の展覧会を見に行っていた。その中で印象的なお出かけ先は、大阪の万博公園敷地内にある国立民俗学博物館(通称みんぱく)。
天井の高い広々とした空間に、世界各地の民族衣装や生活道具、人形や祭壇など独自の芸術作品などが展示されている。オセアニア文化圏のフロアから始まり、アメリカ、ヨーロッパ、アフリカ、アジアは東南・南・中央と北アジア・東アジアに分かれていた。途中の動線で企画展が開催されているエリアもあって、ゼミの目的はこの企画展だった。2018年は北米のアーミッシュ・キルトの展覧会、2019年はメキシコのアルテ・ポプラルと、想像上の生きものをモチーフに生み出された作品が勢揃いした驚異と怪異の特別展を鑑賞した。
最初は社会科見学みたくみんな揃って入場したが、鑑賞モードになった途端、各々自由に展示作品や民俗資料を見てまわった。オセアニア地域の動物をモチーフにした木彫、ラテンアメリカ地域のヨーロッパ圏とは少し趣の異なる聖母マリアの祭壇、なんとなく見慣れたインドのヒンドゥー教ガネーシャ神の彫刻。もちろん日本エリアも広々設けられていて、お正月に飾る各地域独特のしめ縄や、東大寺でもお馴染みの阿形や吽形も佇んでいた。常設展だけで見応え満載で、丸一日みんぱく施設に滞在していた。
ゼミということであくまで授業の一環だったが、自分のペースでじっくりゆったりと鑑賞できたのも良かった。ゼミ生仲間も先生も独自の感性や世界観を持っていて、互いに干渉し過ぎず、でも波長があった時に気軽にポンっと感想を言い合える、あの程良い距離感が心地良かった。
小学校や中学校時代の社会科見学は、分刻みのスケジュールで時間と団体行動にものすごくシビアだったのを覚えている。それが悪いというわけではない。社会に出れば、時間を守る事が信頼を得るための大切な要素になったりするわけで……。ただし、普段の生活で接する事が少ない文化遺産や知識を、短い制限時間で吸収することは難しいと思うのです。
肌寒い季節でのお出かけゼミだったが、黄色い日光がぽかぽかと照っていてお散歩日和だった。
「せっかくだから外で珈琲淹れようか?」
鞄から手際よく簡易のバーナーとポット、珈琲豆とコーヒーミル、人数分の紙コップを取り出し(いつものことながら先生の準備が良い)、この日は畳ではなく木製ベンチとテーブルでの珈琲タイムとなった。さらに朝から焼いた先生お手製の全粒粉クッキーをフードペアリングに、一瞬にして森の喫茶店に早変わり。
寒さの中の暖かい気候、木漏れ日の緑と黄色の色差、マンデリンブレンドのホットコーヒー、甘さ控えめのプリミティブな味のクッキー、世界の細部まで見渡せるようなボリュームのある民俗学豊富な展覧会の余韻。
この記憶の彩度は鮮やかです。
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