カズオ・イシグロの「日の名残り」はお気に入りの一冊。1989年に刊行されたこの小説は多くの読者に親しまれており、1人1人が違った印象や感想を抱いている。
身近でも2人の知り合いが『日の名残り』を読んでいた。昼間に1人、夜に1人……1日にそれぞれから同じ本の感想を聞いたミラクルデーだった。
「英語だとDayですけど、日本語の‘日’って太陽の意味も感じられて、光の移り変わりや名残りの風景がイメージされるんですよね〜。タイトルの訳も秀逸です!あと最後の最後に誰かに話を聞いて欲しい!ってなる主人公の気持ちがめちゃめちゃ分かります。」
「まだ前半部分しか読めてへんけど文体難しいな。『私を離さないで』の方が読みやすかったかも。よく出てくる単語あるんやけど、日本語版でなんて訳されとるか気になる。」
2人とも目の付け所が独特だ。自分と異なる視点からの素直な感想に、こんな解釈もあるのか!と新鮮な思いを抱く。
此処で私の感想を記しておこう。
旅の道中でも回想の中でも、主人公は様々な人と出会う。農家や医者など今を生きる人々と、紳士淑女・国内外の政治家など過去に生きていた所謂高貴な人々。時代が過ぎ去るにつれ、人間模様も変わりゆく。主人公を取り巻く登場人物たちの違い——特に職業や階級が、時間軸によって対照的になっているのが印象的だった。
一つの物語から、三者三様の感想をピックアップした。私の周りだけでも、こんなに違った意見を聞けたのだ。もっと外を見渡せば、さらに異なる解釈や感想と出会えるだろう。
本に限らず誰かと話をすることは、それだけで世界が広がる感覚がある。
人の思考は十人十色、みんな違ってみんな良い。
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